株式会社マネーパートナーズ ホームページ寄稿     二〇二〇年 九月

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第180回 「再見」か「不再見」か

2020年09月02日

株式会社マネーパートナーズ ホームページ寄稿     二〇二〇年 九月

 米中の対立は時と共に拡がり続け、かつ、深刻さを増してきている。貿易不均衡とか先端技術の盗用とか、少なくとも問題の内容が特定可能で、従って解決の可能性が有り得た段階は残念ながら確たる成果もなく終わってしまった。七月二十三日ポンペオ国務長官の演説は米中対立の本質がそういう次元の話ではないということを始めて明確に表現したものであって、本人がそれを自覚していたかどうか判らないが、歴史的な意味を持っている。

 ポンペオが言ったのは、問題の核心は習近平政権の共産党独裁という政治体制と強権的国家資本主義という政策であり、これが変わらない限り米中の融和はないという、考え方によっては、大変非外交的な激越な発言なのである。現在中国で一部の知識層に、習近平政権の余りに好戦的な政策に対する不満と不平があること、指導部が反政権分子の動向に非常に神経質になっていることは事実であろう。ポンペオの発言が、何か特別の情報に基づいて、反習近平派に対する援護射撃を意図したものであるのか私には判らない。しかし、米中対立が新しい段階に入ったことを双方が認識したという事実ははっきりと肝に銘じておく必要がある。

 習政権側も米中対立が最早妥協と駆け引きでディールを重ね、曖昧なG2体制を続けて行けるようなものではなくなったことが判ったようだ。十月に決まるだろう二〇二一年からの新五ヶ年計画を柱にして、経済、技術、統治機構、軍事、外交の四分野で中長期的な中国モデルの展望が明らかになって来るだろう。こういう中国の動向の背景に、一方ではコロナウイルス問題で見直された「中国の優位」に対する自信と、他方では香港・台湾情勢等で露呈された国際的信任における中国の劣位に対する警戒の両方があることは云う迄もない。

 第一の経済・技術分野における中心指向は「自立」である。一九九〇年代以来の中国の急発展は、先進諸国から資本、技術、経営を導入し、それとの安価大量の労働力とを結合して、中国を世界最大の輸出国に発展させることによって実現した。輸出がGDPの三五%を超えることもあったほどの輸出主導型成長だったのである。しかし、この成長モデルは貿易不均衡による米中摩擦の激化と、過剰生産による世界市場の混乱で持続不能となった。目下習政権の目標は輸出主導成長から内需主導成長へのシフトである。そのためには、国民所得を増やして国内消費を拡大しなければならないし、企業も輸出指向からの内需指向に変らねばならない。自立が最も必要なのが先端技術の分野であることは言を俟たない。知的財産をめぐる米中の抗争は総力戦の様相を呈しているが、中国がもう今迄のように先進国の先端技術に容易にアクセスできなくなったのは明らかである。そして習政権は今や国の総力を挙げて技術立国に邁進している。その本気度は一〇〇%である。

 貿易や技術での自立が進むということは、米中関係が相互依存の度合いを下げ、いわゆるデカップリングが進むことである。勿論、中国がサプライチェーンで独占的な地位を持っている場合、例えばレア・アースとか医療器材などで輸出が戦略的価値を持っている場合は別だろう。しかし基本的に習政権としては今後米国を含んだ多角的で自由な体制の中で輸出を増やすことで成長を達成することは目指さないということである。

 第二の統治機構に関して云えば、習近平は中国型の国家資本主義が米国型の自由民主主義に優位すると確信している。そしてこの国家資本主義を支える三本の柱は共産党の独裁、技術の優位性、活力の維持である。認めなければならないのは、習政権がこの三本の柱を守るために一生懸命努力していることである。毛沢東の確立した独裁政権と比べれば習政権ははるかに弾力性を持っている。党員の質の向上、綱紀の粛清も本気で続けられている。

 技術の優位性に関して云えば、AIやビッグ・データ等の技術の持つ力について習政権は世界の誰よりも良く理解している。技術が政治、社会、文化などの価値観に対してどのような影響力を持つかというテーマも彼らのアジェンダには既に乗っているようだ。ジョージ・オーウェルの世界が実現するのかという話である。

 活力の維持は難しい問題だ。日本を含めかつて国家資本主義を試行した経済が共通して遭遇した問題は、国家資本主義が成功し、その成果は出盡し、いわば賞味期限が終わったのに、既得権益に押されて自由な市場資本主義への移行ができなかったため、経済全体の活力が失われてしまったことだった。習政権はさまざまな改革でこれを防ごうとしている。ベンチャーの奨励、育成、国際的国有企業の強化、規制緩和、社債・株式等資本市場の整備、法人統制・会社制度の改善等々である。今迄のところ習近平型国家資本主義が、米国が期待していた程に脆弱でなかったことは明らかである。勿論、三本の柱がどうなるかはまだまだ判らない。共産党独裁の権威を支える党の無謬性などというものは維持できるのだろうか。ビッグ・データのどれをどう使うか決めるのは誰なんだろう。国家資本主義の下で、活力を生む源泉は利潤の極大化以外に何があるのだろう。こういう問への答えは未だ出ておらず、習近平型国家資本主義は試行錯誤の過程にあるのだが、今迄と違うのは、明らかに成果の上がっている部分があることと、競争相手の米国型市場資本主義が一向に強みを発揮できず停滞していることである。

 習近平中国の中長期的課題の第三の分野である軍事面における習近平政権の意図は比較的に明快なように思える。つまり、現状での米中の軍事力の差は明らかである。従って武力衝突を起すメリットは中国側にはない。中国のなすべきことは、実行可能な最大限の努力を着実に続けることで米中の差を狭めることである。とくに非従来分野のサイバー、ロケット、宇宙空間等が重視されていると思う。当面の係争地である台湾海峡、南シナ海、尖閣諸島等については、まず米国にとっての本当にレッド・ラインが何処にあるのかを慎重に見極め、そのラインギリギリ迄実効支配を拡げ、かつ、レッド・ラインを段々と相手側に押し込むように努力するということだろう。正直な話、米中間で一番現実的なリスクが高いのはこの分野だろう。触発要因というのはコントロールの仕様がないのである。

 中長期課題第四の外交分野での習政権の作戦は「陣取り合戦」だろうと思う。習政権は発足以来ユーラシア大陸の盟主という歴史的地位への復帰の決意を闡明にした。一帯一路構想を発表し、AIIB(アジアインフラ投資銀行)を設立した。自国周辺の貿易圏での人民元の利用を積極的に推進し、資本取引での人民元の使用を様々に拡大して、人民元の国際通貨化を図っている。人民元を中心とするアジアのデジタル通貨構想を持っている。一方米国もこの中国の動きに反撥して、自ら太平洋国家と称し、アジア太平洋地域での指導国家の地位を死守しようとしている。最重の同盟国である日本に加え、インドや旧英連邦のファイブ・アイ、台湾、ベトナム等との連携を強化して中国包囲網を作ろうとしている。習近平政権は最近の拡張主義に対する国際的反撥の強さに警戒心を持ったことは事実だろうが、路線変更を考える気は更々無い。従来通り、経済、技術、軍事のあらゆる手段を駆使して、影響力拡大を目指している。また現にその努力はそれなりに成果を上げているのである。韓国、フィリピン、ラオス、カンボジア、ミャンマー、スリランカ、パキスタン等の情勢を見れば明らかであろう。

 要するに、習近平中国は従来とは一変した新しい大国の道を歩き始めているのである。十四億の民と十四兆ドルのGDPと三兆ドルの外貨準備と米国と角逐する軍事力、技術力を持った国は、中国圏の盟主に適わない存在に成長したのである。

 日本人が肝に銘じておかねばならぬことは、今後数十年米中が宥和する可能性は有りえないことである。両国間の相互依存の関係はゼロになることはないが、傾向としては低下する。デカップリングが進むだろう。両国間のさようならは再会を願った「再見」ではなく「不再見」なのだ。

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プロフィール

  • 著者近影 行天 豊雄(ぎょうてんとよお)
    1931年生まれ。55年東京大学経済学部卒業後、大蔵省に入省。プリンストン大学留学。国際通貨基金、アジア開発銀行に出向、国際金融局長、財務官などを歴任。89年退官後、ハーバード大学、プリンストン大学の客員教授を経て、92年から96年まで東京銀行会長。95年12月に国際通貨研究所初代理事長となる。2016年10月より同研究所の名誉顧問に就任。98年には小渕首相の助言役として内閣特別顧問を努めた。著書には「富の興亡-円とドルの歴史」(東洋経済新報社)など。


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