予想以上に円安の圧力は強い。ドルは弱くなっても、円には及ばずドル安・円安で推移した。
ただ、この基調がいつまでも続くとは思えない。理由は後述するが、理由は、市場はあまりにも円安の流れの傾いているからである。気分的には、「人の行く裏に道あり花の山」である。
クロスの相場展開は、いかにもわかりやすい。先週の予想と比較してもドル円は全く逆に行ったが、ユーロ、ポンドに対しては個人的には満足点である。英ポンドは1.4248と2018年4月半ば以来のポンド高・ドル安、ユーロはポンドほど強くならなかったが、それでも今年1月8日以来の1.2263まで上昇した。カナダドルにおいては、2015年5月半ば以来のカナダドル高となるほど、米ドル安が目立った。ドルインデックスは89.5台(5/25,5/26)と再び90割れとなり、反転の勢いは感じられない。反対にドル円は4月6日以来の110円台への円安、典型的なドル安・円安相場となった。
この要因はいくつかあるが、まず日米一蓮托生説が背景にあるように思える。次いでドル円のドル長期金利の動きとの連動が強まっていることである。金利連動については、常時要因になっているわけでなく、定期的に強弱を繰り返しているので、常に有効性をフォローしていかなければならないが、現在は振幅の差はあるが、方向性は一致している。
そして、金融政策変更への期待度の違いである。具体的には、テーパリングの開始時期への信頼度である。円に対しては、現在買う理由がない。低成長、低金利、資源もなく、人口減が続いている。ましてやワクチン接種遅れも大きい。テーパリングの「テ」の字も話題に上らない。一方欧州開発銀行(ECB),米連邦準備銀行(FRB)は、日銀より一歩進んでいる。
ところで、議論として、中央銀行は、市場より先行すること(Ahead of the Curve)と、市場に追随すること(Behind the Curve)のどちらが望ましいか、がある。FRBについて言えば、経験的には議長に考え方によって異なっているが、以前は市場の先を行くことが中央銀行の役割(あるいは義務)の立場で、市場を誘導していくことが多かった。しかし現在のパウエル議長は、前者の立場を基本にしながら(昨年のパンデミック時の大幅な一気の金融緩和策の導入)、アベレージインフレターゲットなどのように政策目標の透明化を用いるなど、後者の立場で政策変更を行っていると推測している。
そして、今月6月は中央銀行の政策決定会合の月である。特に米FOMC(6/15-16)の議論の中身が注目される。細かくは、議事録の発表を待たれるが、声明文と同時に発表される経済見通し、ドットチャートでまず想定できる。そのうえで最終日(6/16)の午後に行われるパウエル議長の記者会見で議論の中身を垣間見ることができる。それまではFRBの理事や、地方連銀総裁の発言を注視していくことになる。例えば、昨日はプレイナード理事のインフレに対する発言(インフレ期待を注意深く監視など)があった。
期待が盛り上がっている分、結果が予想とちがう場合の反動は大きい。その点で、円安よりも円高に動いたときに振れ幅は大きくなる。その第一弾が今週の米雇用統計である。予想は、非農業部門雇用者数(NFP)は、プラス65-70万人(先月は+26.6万人)、失業率が5.9%(同6.1%)である。今月のNFPは先月が少なかった分、改訂も含めて100万人に近い増加になると予想している。そうなった場合の最初の反応は、ドル高/円安となるだろう。
さて、今後1週間の相場見通しは、ドル円は、円安の109.00~110.50円と予想。またユーロは、対ドルでユーロ安の1.2100~1.2300、対円では先週と変わりなく132.50~134.50円と予想。また、英ポンドはコロナ感染沈静化を背景にポンド高の、1.4050~1.4300と予想している。
(2021/6/2, 小池正一郎)