これまで、140円に近付いたものの、跳ね返されてドルが下落に転じ始めたとき、過去のバブル破裂時の形状と比較して、今回の急激なドル円上昇カーブは、反落するときは同様な急激な下降カーブが起こる可能性が高いと話していた。最近のドル急落はその一端が表れた相場展開であった。
初日(7月27日)こそ下落幅は1.38円だったが、その後一日平均2.20円で3日連続して下落、5日目も欧州市場オープンまでは、節目の130円割れに届くような勢いでドルは売られていた。同時にペロシ米下院議長の台湾訪問問題から地政学的リスクが浮上し、有事の円買いとの発想も出た。ペロシ氏は、米大統領継承順位が副大統領に次いで第2位となる高官である。中国の反発の高さと今後のリスクの大きさを考え、さらなる円買いの勢いも想像できた。
一方、テクニカル的にもドル円の弱さが意識された。欧州市場オープン時には、一目均衡表の雲下限(131.39)も、89日移動平均線(131.36円)も下回り、三役逆転現象が起きていた。ドル弱気一色という面持ちであった。しかしNY市場が始まっところで、ドル円は、するすると上がり始めた。
終わってみれば、一日で3.21円の上昇、終値は133.34円となり、日足は5日ぶりに長い陽線で雲上限をも上回った。終値ベースでは89日線はサポート線となっている。これで2021年9月23日以来、終値ベースで89日線を割っていないことになる。「ドルは強さを維持している!」と感じた瞬間であった。と言って140円に戻るとは予想していないが…。
今後のドル円の動きは、やはり日米金利差に尽きる。今回の円高を経た後でも、市場では、円安継続見通しが相変わらず多い。確かに、大きな流れの中では、日米の政策当局の基本スタンスで見れば、日銀が政策変更をしない限り、金利差は拡大していく。これに対し筆者の見通しは、今月が円安のピークで、来月以降、ドルは軟調に推移するとの見方である。ただ筆者は少数派のようだ。
しかし日米金利差は米国経済から起こると筆者は考え、米国経済指標に重点を置いている。政策金利差は拡大しても、米国経済が後退していくと想定すれば、米国の実質金利は低下し、市場ベースでの日米金利差は縮小していく。その大きな指標の一つが、今週末5日に発表になる雇用統計である。その予想は、非農業部門雇用者数が+24万人(前月は+37.2万人)、失業率は3.6%(前月と変わらず)となっている。もう一つの重要指標は、やはりインフレ関連指数である。雇用統計でも、平均時給(Average Hourly Earnings)が注目される。予想は、4.9%(年率、前月は5.1%)となっている。また、来週10日には消費者物価指数(CPI)がある。
さて、今後1週間、ドル円は132.00~134.50円、またユーロドルは1.0050~1.0250、対円は134.50円~137.00円、英ポンドドルは1.2000-1.2300と予想する。
(2022/8/3、 小池正一郎)