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市場養生訓

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第658回

2017年02月14日

 統一通貨の誕生には長い道のりがあった。1957年のローマ条約に始まり、スミソニアン体制下の固定相場時代、欧州通貨はドルに対して一定の変動幅内で動き、かつ欧州通貨間の変動も一定の枠内に抑えられていた。それはスネークと呼ばれた。そのスネークを将来の統合に向けて安定させることを意図した制度が79年のEMS(欧州通貨制度)、ECU(欧州通貨単位)を創設し、ECUと欧州各国通貨との為替レートを設定、ECUを介して各国通貨間の為替レートが決まった。それを発展させたのがERM(為替相場安定制度)、92年にはマーストリヒト条約を結んで、EMU(経済通貨統合)実現に向けての具体的なプランを示した。ECB(欧州中央銀行)や単一通貨ユーロの創設、ユーロ圏に参加するための条件などだ。

 その間、欧州通貨危機など通貨システムを脅かすほどの危機が何度もあった。それらを乗り越えてようやく99年に単一通貨ユーロは誕生した。血と汗の産物とも言える。

 ルペンが率いるフランス国民戦線(FN)は、政権を取った暁には、ユーロから離脱してフランを採用し、並行してECUも導入するとの考えだ。ユーロ誕生前のシステムに戻るつもりだ。しかもユーロとフランの交換比率は1対1とのことだ。

 これが現実化したらフランスにユーロ建て債権を持つ人は大損する。逆に負債を持つ人は大もうけだ。フランス国債の価値は暴落するので国はハッピーだろうが投資家はたまらない。格付け会社はユーロからフランに変えたら、フランス国債をデフォルト認定するとの見解だ。さらにFNは中央銀行による国債の直接引き受け、財政ファイナンスも主張している。

 BREXIT,トランプ大統領の誕生と世界は予想外の事態に困惑したが、フランスの選挙の結果、ユーロ離脱、ユーロ崩壊となれば、その衝撃は計り知れない。

 市場ではフランス国債のイールドが高騰し、ドイツ国債とのスプレッドが広がっているが、危機的な状況にはない。その理由として次のような点がある。

 フランスの大統領選は二回投票があり、最初はルペンが1位になったとしても2回目は反極右バネが働き。決選投票で勝つ見込みが薄いこと。ユーロからフランやECUへの移行は現実的には容易ではないこと、国債のデフォルトなど対応が難しい問題が山積すること、そうした事態に対応できる政治的資本がルペンやFNに乏しいこと。

 だがそうは言っても安心はできない。歴史は人の乏しい想像力を超えるスピードで動いている可能性もあるからだ。BEXIT,トランプ大統領誕生がユーロ崩壊の序曲というシナリオも完全には排除できない。

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プロフィール

  • 著者近影 小口 幸伸(おぐちゆきのぶ)
    1950年生まれ。通貨・国際投資アナリスト。 元ナショナルウェストミンスター銀行国際金融本部長。 横浜国立大学経済学部卒業後、シティバンク入社。変動相場制移行後間もなく為替ディーラーとして第一線で活躍。シティバンクのチーフディーラーとなる。その後ミッドランド銀行為替資金本部長を歴任。

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