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市場養生訓

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第720回

2018年05月15日

 アルゼンチンペソの下落が止まらない。昨日は7%強下落した。結局IMFの支援を要請したが、すぐには収まりそうにはない。ペソの流動性は低く、ペソの買い持ちポジションで捕まるとなかなかポジションを切れない。提示される値が悪く、躊躇すると次の機会にはもっと悪い値になっている。市場の流動性の低い通貨のポジションを持った時、ストップロスに躊躇しないことは鉄則だ。

 前回、ペソの危機が新興国全般の通貨危機に広がる可能性は低い、と4つのポイントを挙げて論じたが、もう一つ追加すべきかもしれない。

 マレーシアのマハティールだ。92歳で権力の座に復帰した。彼は市場のディーラーが嫌いだ。知り合いのディーラーがリンギを大量に売ったとのことでマレーシアから国外追放になったこともあった。(名目はポジションリミットをオーバーしたとのことだった)

 有名なのはアジア通貨危機の時のジョージ・ソロスとの論争だ。ソロスは、自由な資本移動は通貨危機の原因ではなく、当該国の旧態依然とした制度や規制が原因であり、規制緩和や柔軟な制度の必要性を主張した。

 一方マハティールは、自由な資本移動は経済的にも社会的にも混乱をもたらすだけで制限が必要とした。特に短期の資本移動は百害あって一利なしとして、それを担う市場のディーラー達を口汚く批判した。そしてマレーシアは実際に資本取引を制限し、通貨制度も固定相場制に変えてしまった。

 当時ソロスは、制度や規制は経済のファンダメンタルズに沿った合理的なものに収れんするという考え方の下に、現実の制度とのズレをポジションに反映させる手法を採っていた。それで92年のポンド危機で大成功をおさめ、アジア通貨危機にも積極的に参戦していた。いわば全盛期で、グローバリズムの旗手ともてはやされた。

 そこにマハティールが真っ向から立ちはだかった。結局その後のマレーシアは、外国からの資本が入らず経済は破たんするとのソロスの見立て通りにはならなかった。ソロスはその後自由な短期資本の弊害を認め、規制の必要性を認識するようになった。勢いのあったグローバリズムの潮流に一石を投じたと言う点でマハティールは時代の先を見ていた。

 ソロスは88歳。慈善事業に軸足を移し、自由で民主的な社会を中東欧に築くために大学院を設立したり、多様な支援活動を行ってきた。しかしソロスの理念は中東欧の国から批判を浴びるようになった。批判の急先鋒の一人はソロスの支援で教育を受けた故国ハンガリーの現首相だ。ソロスは批判を甘んじて受けてきたが、ついに反撃を試みるようだ。

 二人の老人のエネルギーはどこから来るのか。市場大好きなソロスと大嫌いなマハティール。市場から抽出したエキスがその源かも。


※当コラムは毎週火曜日の更新です(火曜日が祝日の場合は休載となります)。

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プロフィール

  • 著者近影 小口 幸伸(おぐちゆきのぶ)
    1950年生まれ。通貨・国際投資アナリスト。 元ナショナルウェストミンスター銀行国際金融本部長。 横浜国立大学経済学部卒業後、シティバンク入社。変動相場制移行後間もなく為替ディーラーとして第一線で活躍。シティバンクのチーフディーラーとなる。その後ミッドランド銀行為替資金本部長を歴任。

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