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市場養生訓

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第740回

2018年10月09日

 中国が預金準備率を引き下げた。これにより金融機関は約1千億ドル相当額の資金供給を受けることになる。準備率の引き下げは前回7月に続くが、今年三回目だ。

 中国は今年の基本方針として信用の膨張を抑制することを掲げた。企業の過剰生産や債務の拡大に歯止めをかけるためだ。従って本来なら預金準備率の引き下げなどの金融緩和策を採ることは望ましくないはずだ。しかし採らざるを得ないのは米中貿易戦争の景気や雇用への計り難い影響への配慮からだ。

 しかし中国にとって緩和政策にはネガティブな側面もある。一つには債務問題の処理などが遠のくことだ。先送りすればそれだけ金融市場のリスクは増大する。もう一つは人民元安の進行だ。

 米国の引き締め策と中国の緩和策で金利差が縮小している。前回の預金準備率の引き下げ後も人民元安(対ドル)が進んだが、7.0を超えることはなかった。だが今回はドル金利の上昇機運は以前より強くなった一方、米中の貿易戦争はエスカレートする可能性が増した。

 米国は中国に対して関税の引き上げを拡大させるだけでなく、他の外国に対しても中国との取引を再検討することを半ば強制するような話もトランプ政権周辺から出ている。

 こうなると中国は一層の緩和策が必要になる可能性がある。となれば人民元安は前回の局面(8月)より進むことが考えられる。

 人民元安が大幅に進行すれば、2015年のように大量の資本流出、大幅な外貨準備減、資本市場の急落、景気悪化などの可能性がでてくる。さらに米国は為替操作国として中国への非難を強めることも考えられる。

 今回の準備率引き下げに際して、人民元安の要因になることを当局が敢えて否定したのも人民元安懸念の裏返しだ。

 中国の人民元の大幅な下落の影響はそれだけにとどまらない。いくつかの新興市場国通貨は今年大幅に下落したが、それでも全般的な通貨危機に繋がらなかった。新興市場国の外貨準備の増加、通貨スワップ網の整備、自国の資本市場の発達などが要因として挙げられるが、特に中国の人民元の安定がある。ブラジルを始め多くの新興市場国にとって最大の輸出市場だ。

 そうした新興市場国にとって中国の緩和策は本来好都合なはずだが、それが大幅な人民元の下落に繋がると、悪影響の方がはるかに大きくなる。

 いずれにせよ中国は米国トランプ政権に対して受け身的な対応を余儀なくされている限り、人民元の下落は避けられない。何とか大幅な下落や急落を避けてなだらかな下落をはかり、米国の政治状況や金融政策のスタンスの変化を待つしかないことになる。


※当コラムは毎週火曜日の更新です(火曜日が祝日の場合は休載となります)。

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プロフィール

  • 著者近影 小口 幸伸(おぐちゆきのぶ)
    1950年生まれ。通貨・国際投資アナリスト。 元ナショナルウェストミンスター銀行国際金融本部長。 横浜国立大学経済学部卒業後、シティバンク入社。変動相場制移行後間もなく為替ディーラーとして第一線で活躍。シティバンクのチーフディーラーとなる。その後ミッドランド銀行為替資金本部長を歴任。

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