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市場養生訓

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第832回

2020年09月29日

 ドルが戻している。ドル指数もユーロドルも9月初めころからドル戻し基調だ。4か月間ほど続いたドル安相場の典型的なショートカバーの局面だ。
 ちょうどトランプ大統領が大統領選挙の結果を尊重しないと発言した頃からだ。郵便投票は不正が行われるので負けても認めないというわけだ。それで大統領選の市場への影響の不確実性が増し、市場のボラティリティーが高まった。それでポジションリスクを減らす動き、つまりドルショートのカバー取引を誘発した。
 ショートカバーの誘発要因は他にもある。中央銀行の動きだ。
一つはスイスの中央銀行(SNB)だ。先週SNBはスイスフランの上昇を抑制するために介入を強化すると強い調子で言った。今年すでに1千億ドル近いフラン売り介入をユーロやドルに対して行ってきた。それにスイスは既にマイナス金利政策を2014年から採用している。しかもマイナス金利幅は世界で最も大きい。
 それでもスイスフラン高のトレンドは基調として変わらない。それが輸出産業の停滞やデフレ圧力を増す結果になっている。
 もう一つはECBだ。ECBの総裁は今週初め欧州議会で、物価上昇率が8月のマイナスに続き今後数か月はマイナスが続く見通しを示した。その要因の一つにユーロ高を上げた。前回のECB理事会後の会見でも総裁は、ユーロ高の物価や経済成長に与える悪影響に言及した。ECBの他のメンバーもこれまでに同様の見解を表明している。
 SNBは為替市場での実弾の介入をする一方で、ECBは口先介入に留まっているがいろいろな機会で何度もユーロ高をけん制している。裏を返せばドル安の牽制でもある。それだけドル安のトレンドが強いことの表れだ。
 それでもECBが実弾の介入をする可能性は小さい。通貨安競争の引き金を引くことになりかねないからだ。米国から為替操作国に認定される可能性もある。何よりドル安を望むトランプ大統領がどう反応するか読めないからだ。大統領選の結果を尊重しないとまで言う男だ。通貨安競争も辞さずとしてドル下げの口先介入そして実弾介入に踏み切っても驚かない。そうなればドル全面安になる。SNBもECBも望まない状況だ。もちろんBOJも。
 こうした点を考慮すると現在の相場はドル高に転換したのではなく、ショートカバー主体の戻し局面と判断するのが妥当だ。

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プロフィール

  • 著者近影 小口 幸伸(おぐちゆきのぶ)
    1950年生まれ。通貨・国際投資アナリスト。 元ナショナルウェストミンスター銀行国際金融本部長。 横浜国立大学経済学部卒業後、シティバンク入社。変動相場制移行後間もなく為替ディーラーとして第一線で活躍。シティバンクのチーフディーラーとなる。その後ミッドランド銀行為替資金本部長を歴任。


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