欧州連合(EU)が、先週11日に閉幕した首脳会議で復興基金の運用開始にようやくメドをつけた。なおも「法の支配」の条項に関わる不安の種は残されているが、ひとまず一つのハードルを乗り越えたことはユーロ圏にとって朗報と言える。
ただ、一方で英国とEUの通商交渉は、なおも合意に漕ぎつけることができず、11日の市場では欧州時間入り後にポンド/ドルとユーロ/ドルがともに軟調な展開を余儀なくされた。今のところ双方は交渉を継続することでは合意しており、週明けのポンドとユーロはひとまず対ドルで値を戻しているが、交渉の行方自体は未だ藪の中である。
とはいえ、依然として足下では基本的にユーロ/ドルが高止まりの状態を続けており、それだけ市場では「なおもドル安傾向が継続する」との見方が根強いようでもある。あくまでドル主体の動きであるだけに、ユーロの弱気材料にはやや反応しにくくなっているということもあらためて心得ておかねばなるまい。
既知のとおり、ユーロ/ドルは今月4日に一時1.2177ドルまで上値を伸ばし、そこから一旦調整含みの値動きとなった。11月初旬から形成している上昇チャネルの上辺に4日高値がほぼ到達したことも一時調整の要因の一つと言え、なおも上昇チャネル内での推移が続く可能性があることも否定はできない。
先週行われたECB理事会では追加緩和の実施が決定されたが、概ね事前の市場予想どおりの内容であったことから、むしろユーロの弱気材料が一旦出尽くしとなった感もある。まして、ラガルド総裁は理事会後の会見で、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の枠を5000億ユーロ拡大したことについて「全額使う必要はない」と述べていた。どうやらECB内におけるタカ派の理事の支持を取り付けるためであったようだが、市場は「想定していたほどハト派寄りではなかった」と受け止めた模様。
今回の追加緩和の内容は、総じて「ユーロ売り圧力を一気に強めるような内容ではなかった」ということになる。よって、当面のユーロ/ドルについては1.125ドル処を軸とした1.2075-1.2175ドルのレンジ内での値動きを続けると見ておきたい。
一方、米国においては追加経済対策を巡る与野党の協議が再び暗礁に乗り上げている模様で、これまでの期待はやや後退している。また、ニューヨーク市で本日(14日)から店内での飲食が禁止になるなど、規制の内容が強化されており、短期的には景気悪化が避けられない状況にもなっている。
むろん、ワクチンへの期待が根強いことも事実であるが、いざワクチン接種が開始されると、少なくとも期待がムードを盛り上げ続ける局面は過ぎ去り、当面は米株価の上値が少々重くなる可能性もある。結果、そのぶんドル売りの圧力も抑えられ気味になるかもしれない。もちろん、今週のFOMCやクリスマスシーズンの到来を控えて、市場全体でポジション調整の動きが強まっているということも念頭に置いておきたい。
追加の経済対策については、たとえ年内に合意に至ったとしてもそこで一旦「材料出尽くし」となり、いずれにしても米株価を一段と押し上げる材料にはなりにくい。また、FOMC後の会見でFRBのパウエル議長が、当面のインフレリスクについて何らかの言及をした場合には、それが株価調整の引き金となる可能性もないではない。
ちなみに、11月9日以降のNYダウ平均の値動きにはダイアゴナル・トライアングル(斜めの三角形)の形状が見て取れる。これは、これまでの強気相場が「一旦お休み」となることを予感させるシグナルの一つであり、ここは「米株高でリスクオンはドル安」のパターンがいつまでも続くわけではないと見ておくことも必要なのではないだろうか。
先週末にかけては、豪ドル/円が年初来高値を更新し、ユーロ/円も9月高値に迫る。つまり、クロス円は全般に円安傾向を強めており、連れてドル/円も意外なほど底堅く推移する可能性がある。
(12月14日 09:15)