前回想定した「アンワインドの動き」は、週の初めの4日までに一巡。その間、ドル/円は一時的に110円台まで下落する場面があったものの、先週5日には111円台半ばの水準まで値を戻し、週末には112円台を再び回復するというドル強気の動きに戻った。
何より大きいのは、やはり米国債利回りの上昇が継続していることにあり、それは一つに原油価格の上昇継続によるインフレへの懸念の高まりが一因であると見られる。
米10年債利回りは先週4日時点で一時1.45%台半ばまで低下する場面も見られていたが、週末8には1.615%前後まで上昇。前回更新分の本欄でも述べた通り、やはり米国債の市場価格というのは意外なほど値動きが大きい。9月29日以降は一時的にもアンワインドの動きが見られていたが、ほどなく切り返して利回りは再度上昇傾向を強めている。
先週6日に発表された9月のADP雇用者数や7日に発表された米新規雇用保険申請件数の結果が強めだったことが8日発表の米雇用統計に対する期待感を膨らませたということも、米国債利回りの上昇やドル高の背景にはあった。
ところが、いざフタを開けてみると9月の米雇用統計における非農業部門雇用者数の伸びは事前の市場予想を大きく下回った。それを受けて米10年債利回りは一時1.55%台、ドル/円は一時111円台半ばの水準まで低下したが、ほどなく米国債利回りとドル/円は切り返し、むしろ一段の上昇を見ることとなった。
市場の受け止めは「11月のテーパリング開始が遅れるほど悪い内容ではない」ということのようであり、それは今回の米雇用統計の詳細な内容からすれば頷けなくもない。というのも、今回は「飲食部門」の雇用者数が前回の2.47万人減から2.9万人増に転じたうえ、前回マイナスだった「小売部門」もプラスに転じていたのである。それは、いわゆるリ・オープニングの傾向が強まっていることを示していると解釈できる。
「教育」と「介護」の部門が減少となったのは、前回が力強い結果であったことの反動であり、製造業が冴えなかったのはサプライチェーン問題を反映している。つまり、米国はワクチン接種率の伸びが頭打ちで、ワクチン接種が完了した(抗体を有する)人の感染も増えてはいるが、米メルク社によって開発が進む経口薬(飲み薬)の年内供給開始への期待も高まっていることで、とにかく経済活動は積極的に再開していこうということのようなのである。
そうであるならば「パンデミックが及ぼす悪影響に対する緊急対応として導入された資産購入策」の幕を段階的に引いていく、つまりテーパリングを開始することは間違いではない。ただし、かねて米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が述べているとおり「テーパリングと利上げは別物である」という点は再認識しておくことも重要である。
とまれ、先週8日のドル/円は昨年2月高値=112.22円と顔合わせするところまで上昇しており、当面は一旦上げ一服となるかどうかを慎重に見定めることが求められる。米国債利回りや原油価格の上昇はそろそろ落ち着いてきてもおかしくはないが、とかく「行き過ぎる(オーバーシュートする)ことが少なくない」のも事実である。
月足の一目均衡表でドル/円を見ると、今月(10月)の「雲」上限は112.15円に位置しており、場合によっては同水準をクリアに突破してくる可能性もある。突破すれば、もはや2018年10月高値が位置する114円台半ばの水準が視野に入ってくる。
今週13日に発表される米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録の内容に、あらためて市場がドル買いで反応する可能性もあろう。逆に、月足「雲」上限が上値抵抗として意識されれば、一旦は111円台半ばあたりまで再び調整してもおかしくはないと見る。
一方、前回「戻り売りのチャンスをうかがう算段で臨みたい」としたユーロ/ドルについては、今週も同様の姿勢で臨むことが有効と考える。一時的にも戻りがあるとすれば、やはり日足の「転換線」が一つ目安となろう。
(10月11日 07:00)