ずっと違和感を覚えていた。11月に入ってドル/円が再び152円近辺まで上値を伸ばす場面があったことに対してである。そのため、筆者は本欄で11月初旬からしばらく「ドル/円は手掛けにくい状態」と述べ、当座の戦略としてはクロス円の戻り売りが有効であろうとした。そして、11月下旬からはクロス円に加えてドル/円についても戻り売りスタンスで臨むことをお勧めしてきた。
むろん、スワップポイントの支払い負担が生じることも考慮し、あくまで「短期的スタンスで」との条件付き。少なくとも、もう一段の上値を取りに行こうなどという無用な“野心”を抱くことは、一人のFX投資家として個人的にも封印してきた。
誰もが「そろそろ日銀が具体的な動きを見せてもおかしくない」と考えていたはずである。1カ月ほど前から、日本経済紙面上でも「想定より“出口”は近いかも」といったような趣旨の記事をよく見掛けるようになっていた。
11月3日付の日経電子版では清水功哉編集委員が、自身の17年前の苦い経験をもとにして、非常に示唆に富む寄稿(「17年前の教訓 日銀利上げ、物価予測公表と同時と限らず」)を行っている。そのなかには、17年前の日銀について「米国の利上げの打ち止め感が出て円高圧力が強まる前に(量的金融緩和の解除に)動いた方が賢明だった」との一文がある。果たして、日銀は今回、今週行われる米連邦公開市場委員会(FOMC)の日程を考慮して、事前に具体的動きを見せたのであろうか。
それにしても、植田日銀総裁が発した「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになる」という文言は、それこそ“チャレンジング”に過ぎたように思われてならない。なにしろ、当局が最も警戒する「為替レートのボラティリティ上昇を招くリスク」を自ら犯してしまう結果となったのである。
もっとも今回、ドル/円が一時的にも142円割れの水準まで下押ししたことについては、少々過剰な反応であったと言える。もちろん、事前に投機筋による円ショートがかなりのボリュームで積み上がったままの状態になっていたことも一因と考えられる。だからこそ、植田総裁に対しては「他に何か良い言いようはなかったのか」と思えるのだ。
とまれ、その積み上がったポジションが一気に解消されたことに加えて、数多くのストップロスが巻き込まれたことと、少なからぬFX投資家が相次いで「ロスカット発動」の憂き目にあったことも一時的な下げを必要以上に大きくする要因となった。つまり、物理的に一時下げ過ぎた部分もあったということである。
筆者は前回、ドル/円について「7月安値から直近高値までの上げに対する38.2%押しの水準=146.30円何処から50%押しの水準=144.60円処あたり」までの下げを想定した。実際のところ、先週7日と8日の日足ロウソクは長い下ヒゲを伴う格好となりながら、週末には50%押しの水準を少し上回るレベルに落ち着いた。
とりあえず、ここからは少し様子を見たい。今週のFOMCと来週の日銀金融政策決定会合を通過するまでは少々デンジャラスなタイムゾーンと心得ねばなるまい。あえて挑戦するのであれば、ドル/円と同じように長い下ヒゲを伸ばして結果的に週末8日は陽線を描いたポンド/円の短期ロングということになろうか。
この期に及んで留意しておきたいのは、結果的に為替が円高方向に大きく振れたことで輸出関連企業などの収益見通しがやや下振れすることになり、それが24年の賃上げの行方に対してマイナスに作用しないかということである。今回も「賃上げは不十分」となれば、そのおかげで日銀が動きにくくなることも十分にあり得る。自らの言動が自らの選択に制約をかけてしまいかねないということである。
(12/11 07:00)
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