先週の市場は、米連邦公開市場委員会(FOMC)後のパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の発言が生じさせた「ハト派寄りのサプライズ」に唖然とした。
FOMC参加者らによる金利見通しは「24年に3回の利下げ」を示していたが、かなり先走り気味の市場では「3月から一会合ごと7回の利下げ」との見方をも織り込むムード。当然、市場からは困惑の声も聞かれており、「金利低下の動きを煽ることが必要だと議長がなぜ判断したのか分からない」と考える向きも少なくない模様である。
結果、足元では米10年債利回りが4%を下回る一方で、NYダウ平均やフィラデルフィア半導体株指数(SOX)などが連日のように史上最高値を更新し続けている。
やや行き過ぎた反応を見かねた一部の関係者は、市場の早期利下げ観測を強くけん制し始めた。まず、先週15日にはニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁がCNBCのインタビューに対して「利下げについて協議しているというほどでもない」と答えた。また、アトランタ連銀のボスティック総裁はロイター通信のインタビューに対して「来年は第3四半期から2回利下げする可能性が高い」などと発言している。
警戒しておきたいのは、パウエル議長の次の言動。自らの発言によって巻き起こった事態の“火消し”に動こうとする可能性もある。パウエル氏は、今回の会見で「利下げは視野に入り始めており、今回の会合でも議論した」と述べたが、示されたドット・プロットにおいて「0.25%ポイントの利下げが3回未満」と見ている参加者が8人もいたことは事実であり、やはり市場の足元の観測はかなり先走り過ぎと言える。
なお、今回は「やや強めだった11月の米消費者物価指数(CPI)」と「明らかに弱めだった米生産者物価指数(PPI)」の結果が、一部の参加者らの金利見通しに一定の影響を及ぼした模様である。このことは、パウエル氏もブルームバーグニュースの記者による質問への回答で認めており、会合日程の途中で見通しを変更した参加者にも配慮しようという思いが発言に紛れ込んだと見ることもできそうである。
つまり、それを市場が極端な形で受け止めたのであれば、今後、パウエル氏が「ある程度の軌道修正が必要である」と考える可能性もあるということだ。
むろん、後に行われた欧州中央銀行(ECB)と英中銀の政策会合後に、両中銀総裁がともに「利下げに関する議論はなかった」と述べたことで、パウエル氏の発言とのコントラストがより鮮明になったということもあろう。
結果、ユーロ/ドルはFOMC前の1.08ドル割れの水準から1.10ドル処まで一気に駆け上がり、同時にポンド/ドルも1.25ドル処から1.28ドル近辺まで急上昇する場面があった。それで余計に対円でのドル安圧力も強まったと考えられる。
とまれ、前回更新分の本欄で「とりあえず、ここからは少し様子を見たい。今週のFOMCと来週の日銀金融政策決定会合を通過するまでは少々デンジャラスなタイムゾーンと心得ねばなるまい」として述べて良かったと筆者は胸を撫で下ろしている。
日銀会合に関しては、件(くだん)の「チャレンジング」発言が意味するところについて、やや市場が誤解していると見る向きも少なくはなく、植田日銀総裁の“説明”の仕方によっては円が一旦売り戻される可能性もないではないと見る。むろん、ドル/円、クロス円が多少の戻りを試す動きを見せたとしても、あくまで基本は戻り売り。当面は140円処が一つの下値の目安になると見る市場関係者も少なくはなく、とにかく日銀会合が通過するまでは、なおも様子見としたい。
一方、ユーロ/ドルが大きな節目として意識される1.10ドル処で再び押し戻されることになるか否かという点にも要注目。上下どちらか振れた方に短期で乗るのも一法と個人的には考える。
(12/18 07:10)
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