この2週間を総括すれば、やはりドルは強い、である。しかし過去2週間の相場を検証すると、9月までの勢いとは少し様相が異なっていると感じている。「何が?」であるが、ドルはいま天井圏、徐々にドル上昇の勢いは萎んでいき、ドル下落は意外に近いのではないかという感覚になったことである。
まず現状を確認する。市場の流れは、米国のインフレ高止まりと中東異変によるドル買いが加わり、ドル高へのバイアスがかかっている。相場的にはっきりしていることは、米国金利は上昇、スイスフランは急騰、金も高い。見るからに有事に強い通貨、商品が買われていることが分かる。
米国金利は、現時点の10年債利回りは4.85%台と再上昇、10/6に付けた2007年7月以来の高値4.887%を上回る勢いだ。日本の金利は、わずかに上昇しているが、日米金利差で見れば拡大傾向が維持されている。ちなみに日本の10年国債利回りは、今日は0.813%に上昇、今月6日に付けた2013年9月以来の0.810%を更新した。しかし9月末の日米金利差は3.83%、今日は4.04%に拡大している。
しかしドル高進行にはなっていないことが、チャート的に読み取ることができる。具体的には、①ドルインデックス(DX)の週足、②ドル円の相場展開である。そして③有事のドル買いは機能するか、である。
まず、①DXは、9月末まで11週間連続して陽線(ドルの上昇)であったが、10月の第1週は週初の寄付より週の終値がドル安となり、12週目で初めて週足陰線となった。翌週は陽線に戻ったが、今週は今日現在、陰線に逆戻り、ドル高の勢いに陰りが見られる。一方、対極の通貨の一つ・ユーロを見ると、まさしくDXと逆の動きを示している。10月3日には、1ドル=1.0448ユーロと昨年12月7日以来のユーロの安値を付けたが、そこから下値を固めており、現在は1.0585ユーロ(執筆時点)まで上昇している。
次に、②ドル円は、10月3日に150.16円と約11か月半ぶりに150円を突破したが、介入騒ぎで147円台に下落。その後、米消費者物価(CPI)の高止まりを受けてドル円は上昇。しかし日米金利差が拡大しているにもかかわらず、ドル買いは進まず、150円の壁はいまだ破られていない。介入警戒がしぶとく残っていることが大きな要因と思われているが、シカゴ投機ポジションも円売りは縮小、介入懸念がこれまで以上に高まっていることを窺わせている。
③一方で、有事のドル買いであるが、確かにドルの流通性、換金性、保全性を考えれば、セーフヘブン(危険回避)としての意義はいまだに高い。これは誰も疑いの余地はないだろう。ただ米国の信頼性については、内外で揺らいでいるのも事実である。まず10月から始まった会計年度に対し、予算が決まっていない。つなぎ予算が政府閉鎖直前の9月30日に可決したが、それも11月17日まで。下院議長解任という騒動も起き、後任選びも混乱状態。場合によっては、2018年末のように政府閉鎖が再開される恐れもある。一方イスラエル・パレスチナ紛争には、米国が深く関与していることも大きな懸念材料だ。
その結果起こってることは、スイスフランの急上昇、究極安全資産である「金」相場の急騰である。スイスフラン/円は、今日166.76円まで上昇、8月30日に記録した166.59 円 を超え、史上最高値を更新した。また金相場(直物)は、10月13日に一日で約3.4%上昇、1,870ドル/1オンスから一気に1,930ドルを超えた。今日も上昇し9月20日以来の1,946ドルを付けている。今回は米国はむしろ当事者、米ドル以外の代替避難先があることで、米ドルは一方的に「有事に強い」とは言えない状態と見ている。
そこで、ドル円の今後の相場見通しだが、短期的には150円を1~2回超えても、定着せず今年中は140円台後半で推移していくと考えている。早ければ、次のFOMC(結果発表は11/1)で、ドル下落に転じる可能性もある。そして年末は140円台前半と予想している。
そして、今後1週間の相場予想だが、基本的には2週間前と同じく、ドル円は148.00-150.50円、ユーロドルは1.0350-1.0650、対円は156.00-159.00円と予想する。また英ポンドドルは1.20割れはなく、1.2050-1.2350とポンド高に予想する。
(2023/10/18、 小池正一郎)