弱い円の流れは止まっていない。しかしドルが強いかと言えば、必ずしもイコールではない。やはり円の弱さは、そう簡単には覆らない。なぜならドルが強いのでなく、円が弱いからだ。この前提で相場を見ていくと、相場の変わり目が見えてくるかもしれない。現在は円安8割、ドル高2割と読んでいるが、この割合が変わるためには資産運用の原点である三つの高さ(後述)において、日本が米国より優勢にならなければならない。
円が強くならない要因の一つは、日米金利差の変動要因としての力が減退していることである。これまでのように機能しなくなっており、すなわち金利差だけで為替が動いているのではない、と言うことである。おりしも今日は円金利が上昇し、10年国債利回りが11年ぶりの1.00%に上昇した。結果、日米金利差は4月末の3.80%から今日は3.44%に縮小している。金利差要因論の立場から言えば、ドル安円高になってしかるべきである。しかしそうはなっていないのだ。ここにヒントがある。他の通貨に対してはどうなっているかである。
ドルの総合的な価格であるドルインデックス(DX)がその参考になる。先週(5/16)から小幅にじり高になっているが、それ以前、5月1日をピーク(106.490)に続落、5月16日には104.080と約2.3%低下している。米ドルは、円に対しては強いが、ユーロ、ポンド、豪ドルなどの通貨に対しては、軒並み弱くなっている。特にポンドには約3.5%(4/13~5/22)ポンド高ドル安、ユーロに対しても約2.7%(4/17~5/15)ユーロ高ドル安となっている。
一方それらクロス円対価で見ると、ドル円が160.20円を付けた4月29日に軒並み歴史的な円安を記録した時を除けば、現在はまさに高値圏が続いている。具体的にはユーロ円は171.56円(4/29)に対し169.94円(5/22現時点高値)、ポンド円は200.50円(4/29)に対し199.54円(5/22)、豪ドルは104.92円(4/29)に対し104.56円(5/22)という状態だ。この相場は、いかに円が安くなっているかを示すものだ。
しかも、ドル側にドル安要因があるにも拘わらず、である。米国経済の強さに陰りが見え始め、FRB高官からも「次は利上げでない」などハト派的な発言が続き、金利が低下傾向にあることがドル売りをもたらしている。経済指標は、月初の景況感、雇用統計、消費者物価と、結果は予想以上に低調であった。そのために米景気の後退感が浮上してきている。
さて、円相場は、4月29日、5月2日のドル売り介入時、そして米消費者物価発表後こそ円高に動き、介入後は一時151.86円(5/3)まで円は買われたが、それ以外はコンスタントに円は売られ、今は157円超えを試そうとしている。現在の円相場に対する筆者の見方は、極端に言えば、介入以外は円の買い手(ドルの売り手)はいない、との地合いに考えている。
その大きな要因は、日本の構造的要因(貿易、投資、社会)である。長くなるので、ここでは細かくは触れないが、よりわかり安く言えば、日本にはお金が好む高いものがないと言うことに尽きる。このコラムで何回も書いているが、「お金は高い所に流れる」もので、具体的には「信用(元本保証)」「成長(キャピタルゲイン)」「実質金利(インカムゲイン)」であり、少なくとも、日本は米国と比較していずれも劣っている。これが円安の要因であることに間違いはないだろう。今年は米国で大統領選挙があり、政治経済的な混乱も予想されるが、米国と日本も力関係が逆転するのは相当時間がかかると考えている。ただ、170円との声が出ているが、筆者はその考えには組しないが、少なくと150円割れが定着するまでは相当時間がかかると考えている。
さて、今後1週間の相場見通しであるが、ドル円は155.50-157.50円とドル高を予想する。ユーロドルは1.0750-1.1000、対円では168.00-171.00と先週よりユーロ強含み予想とする。そして英ポンドドルも1.2550-1.2850と先週よりポンド高と予想する。
(2024/5/22、 小池正一郎)