まず、円安が止まらない要因だが、簡単に言えば日米金融政策の方向性の違い、すなわち金利差の拡大が大きい。しかし根本は、いわゆる先行きの方向性について示唆するフォワードガイダンスが、米国にあって日本にないことだ。具体的には、米国FOMCがドットチャートを通して政策決定者の考え方を市場に明らかにしていることに対し、日本では金利に対する将来の考え方について文書でも口頭でも直接響いてくるものがない。
もちろん日銀でも後日発表になる「主な意見」(9月の場合、10月2日)や「議事要旨」(同、11月6日)で、ある程度類推することができる。また四半期ごとの展望レポート(4月、10月が本レポート、7月、1月が中間評価)や経済物価見通しで、事後的であるが明らかになることがある。定期的に審議委員が講演会を行っており、この意味で全くないわけではないが、米国と比べると物足りなさを感じる。
これらの情報はいずれも組織的な決断でなく、個人ごとの見解であり、将来の決定会合における政策変更が明らかになっているわけではない。しかも長年の歴史で積み上げた信頼度が違う。米FRBの場合は、発表の都度、相場が反応することで、いかにFRBが市場とのコミュニケーションを重要視しているかがわかる。金利の変更という具体的に見える日米の差だけでなく、目に見えない姿勢も相場に影響を与えていると考えている。
一方で、「フェッド(日銀)ウォッチャー」と言われる中央銀行の動向を専門的に読み解き分析する記者、学者、エコノミストからすれば、「それはある」と答えるかもしれない。筆者は何人かの記事、考え方をフォローしている。例えば米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のGreg Ip氏、Nick Timiraos氏であり、日本でも何人かいる。
ところで、ここまで円安が進むと、ドル売り円買い介入の再開が現実味を高めてくる。海外市場は狩猟民族の草刈り場、狙った獲物は獲得するまで追い詰めていく習性がある。これまでもいわゆる「口先介入」が続いていることで、海外筋は獲物がはっきり見えている。狙いは「日本政府の介入の本気度を知ること」だ。どの水準でドル売り介入が入るか、継続性があるのか、すなわち単なるスピード調整を行う「スムージング介入」か、断固としてある水準を守る「防衛介入」か、あるいは水準を変更する(今回の場合はドル売りを続け円高誘導を行う)「切り上げ介入」か、を見極めることだ。当局の意思を確信したところで、その後のポジション戦略を決めることになる。シカゴ先物市場でも、最新(9月19日現在)の円売りポジションが10万枚(1兆2500億円相当)を超えた。投機筋にとっても、決断の時が近づいていると、気持ちを引き締めているに違いない。
ところで、ドル安の引き金になるかもしれない材料がある。米国の政府閉鎖の危機が迫っていることだ。米国の会計年度は10月から9月であり、9月30日までに予算が成立しない場合、10月1日から政府支出が不可能になる。予算先議権を握っている下院では、過半数の共和党・マッカーシー下院議長が党内をまとめるべく精力的に動いているが、強硬派も多く、まとめられていない。最終的には「つなぎ予算」で乗り切る可能性も残っているが、予断を許さない。政府閉鎖となれば、トランプ時代の2018年12月以来となる。当時は34日間閉鎖となり、雇用や指標発表の遅れなど大混乱となった。格下げへの警告も出ており、バイデン大統領が自動車組合集会に参加したことへの反発も加わり、重大局面に差し掛かっている。
そこで、今後1週間の相場見通しだが、ドル円については147.00-150.20円と150円超えの介入実施を予想する。一方ユーロドルは、前週よりユーロ安の1.0400-1.0700、対円は156.00-159.00円と予想する。また英ポンドドルは、先週より更にポンド安の1.2000-1.2300と予想する。
(2023/9/27、 小池正一郎)