米経済統計が思わしくない。これが金融市場を読む今の筆者の眼である。最近徐々に金利は低下してきたが、昨日FRBタカ派ウォラー理事の発言から予想外に”利下げ”という言葉が出てきたことで、市場ではFRBの利下げが前倒しになるのではないかとの思惑を生み、米金利が急低下した。この動きを材料に為替市場ではドルは全面的に売られ、ドル円は146円台に低下、9月12日以来の円高水準となった。
個人的には、これでドル円の上昇はないと決めつけたくはないが、現在のドル円は高値圏にある、と想定している。結論的に言えば、もう一度150円に近付くことはあっても、150円台に戻ることはないと考えている。ちなみに12月末の筆者の予想は144円である。
さて、ドル円相場は、日米金利差がドル円相場を左右するとの関係は引き続き有効と判断している。その要因を分割すると、①ファンダメンタルズ、②政治(政策金利や介入など)、③チャート、④市場心理となる。相場はこれらが複合的に合わさって出来上がるが、今回はこれが全て同じ方向に向いた結果で円高が進んだと言える。それぞれの項目を確認したいが、その前にドル円相場の主要な変動要因である日米金利差を整理しておく。
昨日、米10年国債利回り(終値ベース)は前日比で0.065%低下、より政策金利に近いと重視される2年債は一日で0.15%も低下した。今日の時間外市場では10年債は9月13日以来の4.26%台、2年債は6月15日以来の4.67%台の水準まで下がった。一方日本10年債利回りは29日終値が0.678%に低下し、現在の日米金利差は3.587%(11/28終値147.07円)だ。先週末は3.70%(11/24終値149.28円)、1か月前は4.00%(10/30終値は149.10円だが、10/31終値151.32円)と着実に金利差縮小、円高推移となっている。
個別に見ていきたい、①ファンダメンタルズ要因とは、米経済指標が基本となる。11月は月初の景況感低下に始まり、昨日の新築住宅販売まで低下が続き、米経済の後退感が高まっている。筆者独自の星取り表では昨日まで一つ(住宅着工)を除き、全て赤色(低下)だ。高金利の影響で経済活動は後退、リセッション突入は不可避(但し落ち込み度は浅く、期間は短期との見方もあり)との見立てがコンセンサスになっている。この点で今日発表の第3四半期GDP改定値が注目される。速報は4.9%(前期比年率)であったが、市場予想は5.0%となっている。
②政治面では、例えば昨日のウォラー理事のようなFRB高官の発言だ。次回のFOMC(12月12-13日)に向けて、発言に対する市場の反応はより強くなると予想される。またFRBが重視すると言っている重要指標が二つ残っている。12月8日の雇用統計と12日消費者物価だ。一方で日本政府のドル売り介入への警戒も大きな変動要因となるが、現在の水準では懸念はかなり後退している。
③チャート面では、一番直近の例では、一目均衡表で今週ドル売りを示す三役逆転が発生した。技術的になってしまうので詳細は省くが、移動平均線との関係も含めてドル安継続を示唆する形となっていることに注目している。そして④市場心理であるが、今はドル金利低下見通しを背景にドル売りから先に入りやすい地合いと見ている。先週までに金利の高いドルを買い、金利の低い円を売る取引、いわゆるキャリー取引(ポジション)が相当大きくなっており、これらポジションの巻き戻し(ドル売り=円の買い戻し)が入りやすくなっている状態だ。
しかし日銀会合(12/18-19)までは時間がある。12月は季節的に市場参加者が少なくなる時期なので、短期売買が中心になるだろう。146円は下げ過ぎと考えるので、ここまでくれば個人的に今はまず買いから入りたい気持ちである。
さて、そこで相場予想だが、ドル円は146.50-149.00円とドル安を予想、ユーロドルはユーロが堅調に推移すると見て1.0850-1.1100、対円は161.00-163.50円と先週より小幅円高を予想、そして英ポンドドルは1.2500-1.2800とポンド高を予想する。
(2023/11/29、 小池正一郎)