「higher-for-longer」(より高く、より長く)。この言葉自体は目新しいものではないが、今、国際金融市場を読むときに、米中央銀行FRBが直面している金融政策への対応についてぴったり当てはまる言葉ではないだろうか。この意味を考えていくと、今後のドル円の展望も見えてくる。
まず152円を超えても、ドル売り介入は出なかったことだ。先週、米消費者物価指数(CPI)の発表をきっかけにしてドル円は、2022年10月から超えられなかった152円がいとも簡単に突破されてしまった。市場では(筆者もそう思っていたが)介入ポイントは152円超えだ、と身構えていたが、その気配はなく、肩透かしを食った思いであった。予想が外れてしまったが、筆者にとっては逆に通貨当局者の円安への対応は、間違いなく2年前とは違っているということを確認できたことは収穫だ。
介入の正当性を得るためによく使われる言葉に「投機的」「スピードの速さ」「ファンダメンタルズ(経済の基礎的な状況)に沿っていない動き」等がある。確かにシカゴ筋といわれるシカゴ商品取引所(CME)の通貨先物市場を見ると、最新(4月9日現在)の円売りポジションは162千枚と、これまで長い間見たこともないような大規模な金額になっている。1万枚以上の売り建て増加が4週も続いており、この点では「投機的な動き」ともいえるかもしれない。
しかし「150円台がファンダメンタルズに沿っていないほどの円安かどうか」という点では、日米を比較すると今の円安はどう見てもそうならない。アメリカの成長は驚くばかりだ。金利は高い。成長率は先進国で一番、アメリカには資金を引き付けるものがある。具体的には、昨日IMF(国際通貨基金)が総会に向けて発表した世界経済展望(World Economic Outlook)に示された経済成長見通しである。アメリカは先進国では断トツの1位である。2024年は+2.7%、2025年は+1.9%である。一方の日本は、同じく+0.9%、+1.0%であった。また金利差に至っては、日銀がマイナス金利を解除したといっても利上げ幅はわずか0.1%。日本の10年国債金利は最近でこそ0.8%を超えてきたが、昨日も米国10年債は4.647%と、3.8%近い金利差がある。運用資金が米国に流れるのは納得いくことである。
そんな中で、介入が入ってきたら、世界の投機家・投資家はどう反応するであろうか。最初のうちは、介入をきっかけに円売りポジションの解消(円買い・ドル売り)が起こり、4~5円ドルは下落すると予想される。しかしファンダメンタルズの状況が変わらなければ、元の木阿弥になるということも目に見えている。「ビックリ」「長く(継続的)」「揃って(協調)」が介入成功のキーといわれているので、当局はこの場面が出るタイミングを計っているに違いないと筆者は思っている。この点から、新興国はドル高の影響を受けているので、日本+アジア新興国で協調介入、というビックリ協調には要注意である。
ところで、米国のファンダメンタルズは好調だ。152円超えを起こしたのは米国CPI。総合もコアも予想以上の高い数字であったことで、インフレは収束していないとの見方になり、金利が上昇、連れてドルも上昇した。次いで小売売上高も予想以上の増加、過去2カ月分も上方改訂され、米国GDPの7割近く占める個人消費も堅調であることも、米国の強さとして認識される。今年は大統領選挙の年、11月まで半年以上もある。そこまで長く、そして現在水準の高さが維持されると「円買い介入の意味は何か」と考えざるを得ない。155円の次は、チャート的には160円まで大きな節目はない。これが筆者の持つ155円の相場観である。
そこで、今後1週間の相場見通しであるが、ドル円は当面介入がなく、155円が壁となると考え、152.80-155.30円と予想する。ユーロドルはECBの6月利下げを先取りして、1.0530-1.0780とユーロ安に予想、対円では162.00-165.00と、小幅ユーロ安と予想する。そして英ポンドドルは1.2350-1.2650とポンド安を予想する。
(2024/4/17、 小池正一郎)