ここ1週間、ドル円はまるで固定相場制に戻ったようだ。牛歩の如く、ゆっくりと円安が進んでいる。理由は簡単だ。一つは155円に近付くにつれて、越えれば、政府のドル売り介入が入るに違いないという警戒感が市場を覆っていることで、あえて新値のドル買いに挑むことはないとの市場参加者の共通認識があることだ。これについては、材料が出たときに動けばよい。魚釣りのように、釣り糸を垂らし浮きが動いたときに引き上げればよい。
ただ、その材料(後述)は今週から続いて出る。大きい所でいえば、日銀の金融政策決定会合(4/25-26)があり、来週には、米FRBの決定会合(FOMC、4/30-5/1)が続く。重要な米国経済指標もあり、相場が動く材料に事欠かない時期になってきた。これまでは、ドルを持っているだけで利息が毎日ついている。ドル投資は長く、ドル売りは短期決算の戦略だ。
しかしいわゆる米シカゴ筋の円売りポジションは高水準のままだ。動き始めると、大きな波になることが予想される。いわゆるエスカレーターアップ・エレベーターダウン相場に備えることが肝要だと考える。
また、もっと頻繁に上下動を繰り返す通貨が数多くあり、別に円だけに固執することはないことがある。これもドル円の動きが鈍いことに通じている。例えば主要通貨でいえばユーロ(政策金利:預金ファシリティ 4%)、ポンド(政策金利 5.25%)、カナダドル(同5.00%)がある。具体例としてクロス円相場で見ると、円安がまた進んでいる。ユーロ円が1か月前につけた2008年8月以来のユーロ高165.36円を23日に更新、165.61円と15年8か月ぶりのユーロ高円安となった。またカナダドル円についても円安が進み、23日には113.12円と2008年1月以来という16年3か月ぶりの円安だ。金利差で見れば米ドルに限らず、キャリー取引の効果が高い高金利通貨はたくさんある。
そこで、いつドル円に大きな動意が見られるかだが、それは目の前にある。まず米国第1四半期GDP(1次推定=速報値)が25日にある。市場予想のコンセンサスは+2.5%(前期比年率)、昨年から2024年度にはリセッションが到来するといわれていたが、その見通しを打ち砕くであろう予想となっている。またGDP予想で先鞭を切るGDPNow(FRBアトランタ連銀)は+2.9%(4/16現在)と強気だ。前期(2023年第4四半期)の+3.4%に比較すると低い伸び率だが、過去20~30年の平均が2%であることを考えれば高い数字だとの見方が多い。
そして翌26日には、東京で日銀の金融政策決定会合の発表という大きなイベントがある。3か月ごとの展望レポートの発表があり、経済見通し(GDP成長率、消費者物価)が更新されるが、市場では緩和気味の金融政策は現状維持との予想が多い。ただし筆者は、現在月6兆円の国債購入について、減額や満期償還分の継続無しのような修正が議論されるのではないか予想している。5月21日に多角的レビューのワークショップが予定されているので、本格的な政策変更(含・利上げ)はその後になると見通している。
一方で、植田総裁は、内外で今後の政策変更の要点について、かなり突っ込んだ発言をしている。今やこれら発言内容は内外の通信社によって世界中に瞬時に伝わっている。会議終了後の記者会見では、今回は思い切った発言になる可能性があると考えている。ただ期待が大きい分、いつものように失望売りの円安も想定されるので、注目度は高い。
そして、この同日26日夜の、米国ではインフレ指数としてFRBが重要視する個人消費支出(PCE)価格指数が発表になる(日本時間、21時30分)。予想は、総合が+2.6%(2月実績+2.5%)、コアは+2.7%(2月実績+2.8%)と、コアは低下するが、総合は上昇の予想となっている。大きく下げない限り、インフレ高止まりとの評価になると予想できる。
そこで、今後1週間の相場見通しであるが、これからは材料が多いので荒れ模様と予想し、介入の可能性も含め、ドル円は153.00-156.00円と広めの予想とする。ユーロドルは、ECBの6月利下げの先取りは消化済みとして1.0600-1.0800とユーロ反発と予想、対円では163.50-166.50とユーロ高値更新と予想する。そして英ポンドドルは1.2300-1.2600と小幅ポンド安を予想する。
(2024/4/24、 小池正一郎)