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第576回 ~心配な米国経済~

2024年05月08日

実に効果的な介入であった。少ない資金で効果を最大化する戦略と見て取れた。総額8兆円程度との概算であるが、合わせて8円近く円を押し上げた。介入初日には約5円(159.50円前後から154.50円まで)、5月3日には151.86円までドル安/円高になった。160円にならないようにする防衛介入と言うより、円を強くする「押し上げ介入」であった。

また「継続」感を打ち出すために、あえて「コメントしない」姿勢を貫いている。薄商いになる東京市場が祝日の時、あるいは海外市場でも取引が縮小する時間帯を狙って介入を実施した模様だ。今後も円安進行の場面で、いわゆる覆面の形で、少ない資金にて効果を最大化する介入は続いていくものと想定している。今月は中央銀行の政策決定会合は行われない。ドル円は6月まで、152円~157円のレンジで推移していくと予想している。

しかしこの円高は、介入だけで成し遂げられたものではない、とも考えている。いわゆる米国側の要因によるドル安もあったことも無視できないだろう。今、米国景気にほころびが見え始めたのではないだろうか。弱い経済指標の発表を契機に、ドル売り円買い介入との相乗的な効果にて円高が進んだとも見え、今後も市場の想定以上に円高に進む可能性があることを十分に意識しておくべきではないかと考えている。

さて、5月1日まで、米国景気の変調、とはいかないまでも、ノーリセッションという楽観的な見方が広がり、市場は「FRBの利下げ開始は後ろ倒しで、かつ2024年の利下げは12月1回だけ」という強気の見通しが増えつつあった。しかし5月3日の雇用統計の発表後は様子が劇的に変わってきた。筆者は定期的にフェドウォッチ(CME―シカゴ商品取引所―に上場されている金利先物相場で計算されるFRBのターゲット金利予想)をフォローしているが、米雇用統計を契機に市場見通しが早期の利下げ開始に大きく変わってきた。

具体的には、5月1日時点では、利下げ開始確率は12月が最大(41.8%)であったが、5月5日時点では9月の確率は、現状維持が低下(53.9→32.6)し、0.25%利下げの確率が増加(37.8%→48.8%)した。加えて、12月にもう一度0.25%利下げを予想する確率が増加(24.4%→36.5%)、年2回(これまでは年1回)の利下げを予想する形になった。年末のFFターゲットレートは、3月ドットチャートでは4.50-4.75%と現在(5.25-5.50%)より、0.75%低い水準を示していたが、市場予想はこれで利下げは年2回、ターゲットレートは4.75-5.00%となった。

ところで、今後の金利見通しを考える上で基本になるのは、FRBパウエル議長が発言しているように、データ依存型アプローチであろう。5月に発表になった諸指標すべてが景気後退を示唆する結果となったことは、今後の金融政策を見通す上で、大事な要因として受け取らなければならない。具体的には、ISM景況感が、製造業・非製造業ともに拡大/縮小を分ける50を下回ったことである。製造業では、先月50.3と、長期の50割れを回復して明るい期待を抱かせたにもかかわらず、今月は49.2と再び50を割り込んだ。また非製造業でも、今月は49.4と16カ月ぶりの50割れであった。傾向的にも右肩下がりの状態であり、懸念材料として浮上してきた。

また、極めつけは雇用統計の結果である。ヘッドラインであるNFP(非農業部門雇用者数)は、今年最少の+17.5万人で、予想(+24.5万人)を大きく下回り、昨年10月(+16.5万人)以来の少ない数字であった。年間平均も、+24.6万人と、昨年の+25.1万人を下回ってきた。教育医療が先月同様増加しているが、情報通信、観光、政府等押しなべて減少していることが気掛かりだ。一方、失業率は前月より0.1%上昇、3.9%となったが、4%以下の継続期間が27カ月と過去の最長記録と並んだが、賃金(時間当たり平均時給)の低下が続いており(3.91%←4.11%←4.25%)、CPI(消費者物価指数、3月+3.8%)と接近してきた。FRBは満足していないとの声も聞こえている。

今週10日にはミシガン大学消費者信頼感指数があり、来週から本格的な経済指標の発表が続く。その中で15日の消費者物価指数が重要だ。同日発表の小売売上高は、前月比で2カ月続いて増加、ネット販売の好調に支えられているが、時期的に、旅行やドライブ関連に需要が高まるか注目される。16日からは住宅着工を皮切りに、中古・新築住宅販売動向が明らかになる。3月は「新築販売」のみプラスで、「住宅着工」「中古住宅販売」が大きく低下している。2月が増加した反動だ、と楽観視する見方もあるが、住宅ローンの金利再上昇などの懸念材料もあり予断が許さない。今月は、主要中央銀行会合は9日の英国だけなので、経済指標やリスク要因の変化がよりクローズアップされると考えなければならない。

そこで、今後1週間の相場見通しであるが、米CPIまでは比較的落ち着いた動きとなると考え、ドル円は154.50-156.50円と予想する。ユーロドルは1.0650-1.0850と小幅ユーロ高に、対円では165.00-168.00と先週よりユーロ安と予想する。そして英ポンドドルは1.2350-1.2650と、先週より小幅ポンド高と予想する。なお9日に政策決定会合があるが、据え置きと予想している。

(2024/5/8、 小池正一郎)

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プロフィール

  • 著者近影 小池 正一郎(こいけしょういちろう)
    グローバルマーケット・アドバイザー。1969年日本長期信用銀行(現・SBI新生銀行)入行後、資本市場部長、長銀証券常務などを歴任。1998年よりUBS銀行外国為替本部在日代表、シティバンク・プライベートバンクを経て、2006年より2015年6月までプリンシパリス.日本代表(国際金融政治情報コンサルティング会社、本部英国ロンドン)。外国為替コンサルタント、ファイナンシャル・プランナー(CFP(r)認定者)。ブログ執筆中(牛誰人のブログ・小池正一郎の世界経済大観)。新潟県出身(関川村ふるさと大使)。

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