先週金曜日のドル円急落には肝を冷やした。朝方は約4か月ぶりに156.75円と高値を付けたが、海外市場に入ってドルは売り浴びせられ、一日で2.90円ものドル安円高となった。米大統領選投票日後11月6日に付けた151.28円を底値に、トランプトレードで15日までの9日間でドル円は上昇したが、一日で約半分失われたことになった。
一体何があったか? 筆者は「地政学的リスク」に注目した。トランプトレードの名の下に、バンドワゴンに乗れ、とばかりに買い進めた勢いに、一呼吸を置いて一旦スピード調整をしたと見た。先週後半は、いわゆるインターマーケット(総合金融市場)間で、高値恐怖感が漂う始めてきた時期であった。例えば、ドルインデックス(DX)が前日14日には、2023年10月24日以来の高値107.064付けたし、ユーロドルも同じ14日に1年1か月ぶりに1.05を割り1.0496と年初来安値を更新した。米国株も史上最高値更新を続けており、何かきっかけがあれば、利食いに走るタイミングが熟し始めていた。
そして注目したいことは、バイデン大統領の「ウクライナに長距離ミサイル使用許可」発言だ。表立って出てきたのが、今週初であったが、ロシアがウクライナを攻撃して11月18日は1000日目になることから、事前に何か感じていた筋があったかもしれない。「真の情報は沈殿する」と意味深い言葉がある。筆者が、米国ワシントンで情報提供会社を経営している知り合いから教えてもらった言葉だ。
彼に言わせれば、ワシントンこそアナログの世界、直に会って文字には残さない情報こそ真の情報だと言う。確かに、筆者がワシントンを訪れて、かの友人と食事をしたときにその光景があったことを鮮明に覚えている。この流儀はいまでも変わっていないと筆者は聞いている。任期残り僅か、しかしまだ大統領であるバイデン氏だからこそ、自分の存在意義を高めたい気持ちがこの発言を生んだとも伺える。ましてやトランプ次期大統領が、前政権(=現在のバイデン政権)の政策をことごとくひっくり返すような発言、人事を繰り返していることから、バイデン大統領の意地のようなものがあるのかもしれない。
レームダック化しているとしてバイデンに注目していない関係者にとって、その後のロシア対応に一斉に反応したのが18日夜からであった。「すわ、戦火拡大か? 核の使用もあるのか?」と一斉にリスクオフ(リスク回避)の行動に移した。円買い、スイスフラン買い、そして米国債買い(利回り低下)である。ドル円は154円半ばから153円前半まで円は瞬間急上昇した。結果としてフォロースルーはなく大事には至っていないが、ロシアの反発発言が伝わったことで、「これぞ地政学的リスク」と目が覚めた場面であった。世界を注目させる米国現政権の行動、発言にはこれからも注意が必要だ。
さて、米国金融政策に目を移すと、にわかに12月利下げの予想が後退してきた。一つは物価に高止まりが見られること。そして、パウエルFRB議長発言がこれまでのハト派的言い回しからやや中立的な発言に変わってきていることである。先週の講演で「米国経済状態は好ましい(healthyとの表現)」として「利下げ継続を急いで実施することに慎重でなければならない」と発言していることだ。これを受けて、シカゴ市場(CME、シカゴ商品取引所)のフェドウォッチでは、12月0.25%の引き下げ確率が、パウエル発言前13日は82.5%であったことに対し、最新(11/20NY朝)は59.1%に低下。逆に現状維持(4.50-4.75%)が、13日17.5%に対し、今朝は40.9%に上昇している。
その景気指標だが、先週発表になった消費者物価は、総合、コアとも予想通りで、総合の年率が+2.6%(前月+2.4%)と上昇、コア年率は前月と同じ+3.3%と高止まりであった。今週からは、住宅関連指標、地方連銀製造業景況感指数、S&Pの購買担当者景況感(PMI)などが続く。特に前月比に注意してウォッチして行きたい。
さて、今後1週間の相場見通しであるが、ドル円は、売り買いが交錯する展開を予想するが153.50-156.50円とややドル堅調推移と考える。一方欧州通貨は、先週の下値(通貨安値)がほぼ予想通りとなったが、中東情勢混迷の影響を受けて今週もユーロ軟調と考え、今週も対ドルで1.0400-1.0700とユーロ下落予想、しかし対円では163.00-166.00円と先週と同じ水準と予想する。英ポンドドルは、今週初に大きく売られたが、今週は物価動向に注目し1.2600-1.2850とポンド下げどまりと予想する。
(2024/11/20、 小池正一郎)
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