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第591回 ~ドル安新時代始まる予感~

2024年08月22日

今週末に米国ジャクソンホール会議にて行われるパウエルFRB議長の基調講演が、これからのドル円の動向を左右すると筆者は考えている。この重要イベントを前に米国経済に変調が見られ、そして金融市場にも相場の方向を変えるかもしれないダイナミックな展開が始まった。ドル安に向かって流れが変わるきっかけになるかもしれないと、明日の夜の講演を待っている。

この会議は、FRBカンザスシティ連銀主催で毎年8月後半に米国避暑地ワイオミング州ジャクソンホールで開催される「経済政策シンポジウム(Economic Policy Symposium)」である。今年は8月22~24日に開催される。個別のスケジュールは 、今日22日午後8時(米国東部時間<以下ET>、日本時間23日午前9時)に発表されるが、毎年重要なスピーカーとなるFRB議長の講演だけは事前に発表されている。時間は2日目の23日午前10:00(ET、日本時間23日午後11:00)で、カンザスシティ連銀のユーチューブにて中継される予定だ。

会議参加者は、主要中央銀行政策決定関係者に加え、経済学者、エコノミスト等で、毎年決められたテーマに沿って論争が繰り広げられる。今年のテーマは「金融政策の有効性と波及の再評価(Reassessing the Effectiveness and Transmission of Monetary Policy)」。米FRBパウエル議長の他、ラガルドECB総裁ら 主要中央銀行トップも講演が予定されているが、昨年出席した植田日銀総裁は欠席すると報じられている(パウエル議長以外のスケジュールは22日午後8時(ET)発表予定)。なぜなら植田総裁は、23日に国会招致で衆参両院の閉会中審査に出席、午前9時半からは衆議院財務金融委員会で利上げや株式市場の反応について説明することになっているからである(ライブ中継があるはずなので期待している)。

日米とも中央銀行のトップが、講演やヒアリングで、「7月の決定以降の景気やインフレ動向をどう評価し、9月の政策決定会合において、米は利下げの開始、日本は追加利上げに踏み切るかどうかについて、どの程度踏み込んだ(あるいは後退する)発言をするか」。注目したい。

さて、この1週間、市場の動きは急展開だ。多くの経済指標が景気後退を示し、金融市場でも米国安が加速、米大統領選でのカマラ熱気とは反対に、米国経済は徐々に後退しているように見える。今日22日は、米雇用者数の年次改訂(速報値)が発表になった。来年3月までの改定数は-81万8千人、2009年以来最大の下方修正であったが、100万人減少との見方もあったことから、発表当初は“少ない”と見て、ドル円は一時146.90円に跳ね上がった。しかし大きいことに変わりがないことから徐々に下落、現在(NY時間12時15分)は145.05円と145円割れ目前となっている。

そのほかにドル安を印象づける材料は、①ドル指数が101.175に急落し年初来安値となり、年始からの往って来いとなったこと。一方で、ユーロは1.1148に、英ポンドは1.3088とそれぞれ急伸、年初来高値をつけ、1年1か月振りの往って来いとなったことも大きい。②金がほぼ毎日のように値を上げ、20日には直物$2,531.62(1オンス)と史上最高値更新(先物はもっと高値)となったことも特筆したい。年初寄り付きが$2,062だったので、これまで$469ドル(+22.7%)上昇したことになる。金利安と、中ソを中心として中央銀行の購入が増加していることが要因。2025年半ばまで$2,700との予想もあるが、筆者にとっては控えめに思える。

そして、③シカゴ商品取引所(CME)の投機ポジションが、これまでの円売りがら円買いに変わったことだ。これは2021年3月9日(円買い6,514枚)以来の約3年半ぶりのこと、個人的には地球がひっくり返ったかのように思えた。8月13日時点の持ち高は、円買い23,104枚である。市場では、これからは円キャリー(円売り)でなくドルキャリー(ドル売り)に変わるとの見方も出てきた。

一方で、ドルの下落は一時的との見方も残っている。「米大統領選挙結果は不透明だが、米国経済はリセッションにはならない。FRBは柔軟的、戦略的な利下げ(例えば1回当たり0.5%)を駆使して、米国経済を支えるはずだ。それに日米の金利は、縮まる確率は高いとはいえ、それでも2.5-3%は維持されるので、ドル優位は変わらない」との考え方である。

ただ、トータルで考えれば、筆者の感じる市場の空気、流れは、間違いなく逆転しつつある。23日の日米中央銀行トップの発言(示唆、言葉遣い)に集中したい。

さて、今後1週間の相場見通しであるが、ドル円は、143.50-146.50円とドル軟調を予想する。一方欧州通貨は、ユーロドルは1.1020-1.1220と更にユーロ高を、また対円では先週と同じ159.50-162.50円と予想する。そして英ポンドドルは1.2950-1.3150とポンド高と予想する。

(2024/8/22、 小池正一郎)

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プロフィール

  • 著者近影 小池 正一郎(こいけしょういちろう)
    グローバルマーケット・アドバイザー。1969年日本長期信用銀行(現・SBI新生銀行)入行後、資本市場部長、長銀証券常務などを歴任。1998年よりUBS銀行外国為替本部在日代表、シティバンク・プライベートバンクを経て、2006年より2015年6月までプリンシパリス.日本代表(国際金融政治情報コンサルティング会社、本部英国ロンドン)。外国為替コンサルタント、ファイナンシャル・プランナー(CFP(r)認定者)。ブログ執筆中(牛誰人のブログ・小池正一郎の世界経済大観)。新潟県出身(関川村ふるさと大使)。

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