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市場養生訓

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第793回

2019年11月12日

 世界の為替市場取引の9割近くはドル絡みだが、2番目に多いのはユーロ絡みで3割の取引を占める。世界の外貨準備の構成通貨に占める割合はドルが6割、ユーロが2割だ。ユーロがドルに次ぐ世界で2番目の通貨と言われる所以だ。
 ユーロの今年の対ドル為替レートは1月初旬の1.15台を高値に9月末の1.08台を安値としたレンジに収まっている。比較的安定していると言える。
 ただユーロを巡る諸条件は安定しているとは言えない。
まずはユーロの価値を維持するための協定である安定・成長協定に明記されている財政や累積債務の限度額を順守できない国が恒常化している。最近の金融政策よりも財政政策の活用を重視する考えの広がりの中で、協定の規定に対する疑念も増している。
 次にギリシャの債務問題がユーロ危機に繋がった反省の中で、危機の再発を防ぐにはユーロ圏の統合の深化が必須との認識が生まれたが、これがなかなか進んでいない。具体的には銀行統合、財政統合などを実現し、最終的には政治統合が理想形になる。だがトランプがもたらした分断の潮流が統合の推進力に影を差すようになった。最近ドイツの財務大臣が銀行統合について前向きの発言をしたが、国内の反発も強く先行きは定かではない。
 さらにEU拡大やユーロへの参加促進もペースが落ちた。EUは2013年にクロアチアが加盟し、28か国に拡大したが、それが最後になっている。逆に英国の離脱が実現すると27か国に縮小する。ユーロ参加国も2015年のリトアニアを最後に19か国のままだ。
 そしてユーロの屋台骨を支えるECBも安定していない。先月退任したドラギ総裁が主導した国債の買い入れやマイナス金利の拡大などによる金融緩和策について内部で異論がくすぶっている。理事会での金融政策決定の方法や市場への情報の伝え方なども含め、ドラギ時代に生じた亀裂の修復は新総裁のラガルドの力量にかかる。
 こうしてみるとEUの首脳たちが望んだユーロのドルと並ぶ基軸通貨化への道のりは長く険しい。最近数少ないポジティブな要因を挙げるとすれば、中国がユーロ建ての国債の発行を決めたことぐらいだ。中国はドルからのシフトを戦略として狙っているが、割合はわずかだ。ロシアは外貨準備や決済通貨でドルからのシフトを積極的に実行しているが例外的で、中国は実際はそうでもない。世界的にもユーロを基軸通貨にしようとする機運は生じていない。

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プロフィール

  • 著者近影 小口 幸伸(おぐちゆきのぶ)
    1950年生まれ。通貨・国際投資アナリスト。 元ナショナルウェストミンスター銀行国際金融本部長。 横浜国立大学経済学部卒業後、シティバンク入社。変動相場制移行後間もなく為替ディーラーとして第一線で活躍。シティバンクのチーフディーラーとなる。その後ミッドランド銀行為替資金本部長を歴任。


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