NHKの朝ドラ「虎に翼」が好調なようだ。大河と朝ドラの違いについて脚本家の語った言葉にその理由の一端が隠れている。「大河は1年かけてマラソンのように走るが、朝ドラは毎日100メートルを走り、6か月続ける仕事だ。まさに毎日100メートル全力150本」と。この言葉を聞いて「これぞ為替ディーラーの毎日だ」、と同感、膝をたたいた。筆者の経験から多くの為替ディーラーは「24/7(一日24時間、一週7日間)」の世界で生きているからだ。
振り返ると5月は日本の休日お構いなく(これが当たり前の世界だが)、相場は激しく動いた。これが朝ドラ感、毎日介入警戒感が市場を覆っている。今日は朝方157.40円と5月1日以来の円安、5月2日に介入が入った水準に近付いている。いつ入ってもおかしくない。しかし次の介入は160円阻止のレベルではないかと予想してる。なぜなら、ここまでのドル高は急激なドル上昇(円売り)ではなく、投機的な動きとは思えないからだ。ちなみに明後日5月31日午後7時に、介入(外国為替平衡操作)の月次報告(4/26から5/29の実績)が発表になる。
さらに現在の為替市場を大きな視点でいえば、今は円安・ドル安といえるだろう。日本の介入時の4月末はドル円は159円台、5月初め157円台後半、ドルインデックス(DX)は前者は106前後、後者は106半ば前後とドル高であった。それが今日はドル円が157.30円前後と、5月初めの水準に近付いているのに対し、DXは104.72(執筆時点)とドル安になっている。ここでドル売り介入ができるか、総合的に考えると、かなり難しい局面になっているのではないだろうか。日米のファンダメンタルズ差を考えれば、これがドル円がじり高になっている大きな要因ではないだろうか。
さて、ドル安は、欧州通貨に対して目立っているが、資源国通貨に対してもその流れが出てきた。円クロスが円安更新の動きになっているのはこの理由である。例えばポンド円、今日200.75円まで上昇。ドル円が160.20円が付けたときの高値(200.50円)を更新、2008年8月以来の更新となった。英国政策金利(現在5.25%)の利下げが他の中央銀行に比べて遅くなるとの見方が背景にある。総選挙実施が発表になっているが、その影響が相場に織り込まれるのはもう少し先になるだろうし、いまのところ金利面でのポンド買いが優先されている。
また米国要因でも、金利安、ドル安が説明できる。住宅販売の低下など経済指標の後退感があり、一部にはスタグフレーション(景気後退下の物価上昇)の警戒が出ていることは要注意だ。もちろん個別にみれば、S&PGlobal発表の景況感で米国は約2年ぶりの高水準となったことや、5月消費者信頼感指数(コンファレンスボード)が4月の97.5から102(予想96)に上昇と、4か月ぶりの水準になったことなど、好材料もある。
今週は30日に1Q米GDP改訂(予想1.5%、速報1.6%)や、31日にはFRBが重要視するPCE(個人消費支出)価格指数(予想は前月実績と同じ、年率で総合2.7%、コア2.8%)がある。そして6月に入って3日のISM製造業景況感(先月49.2)から連日のように経済指標が発表になる。
また6月は中央銀行の政策決定会合月間となり、6日には、利下げが決定されるとの見方が高まっている欧州中央銀行の定例理事会がある。まさに毎日100メートル走が続いていく常在戦場と心している。
さて、今後1週間の相場見通しであるが、ドル円は介入はないとの見方で156.50-158.50円とドル高を予想する。ユーロドルは、ECBの利下げを受けて1.0700-1.0900と小幅ユーロ安、対円では168.50-171.50と先週よりユーロ強含み予想とする。そして英ポンドドルも1.2650-1.2850と先週とほぼ同じと予想する。
(2024/5/29、 小池正一郎)