昨晩(日本時間で7月9日23:00~)のパウエルFRB議長・議会証言のライブ中継を聞いた。年に二回法律に則って行われる金融政策報告で、昨日9日は上院の銀行委員会(U.S.Senate Committee on Banking, Housing, and Urban Affairs)で開催され、本日10日は下院金融サービス委員会(U.S.House Financial Services Committee)の公聴会で行われる。
世界中の市場関係者が注目していたが、結論から言えば「利下げ時期については中立(今後のデータ次第)」とこれまでのトーンと変わりなかったが、判断根拠については、「リスクについてはインフレだけでなく、雇用について比重を上げている」と一段と突っ込んだ発言を行った。ただ、その結果として利下げは急がないとの見方が若干増え、米国10年債は小幅上昇(7/9終値ベース4.298%←4.280%)、ドル円も161.52円まで上昇、161.33円で引けた(7/8引け160.86円)。
今回の議会証言について、事前に配布されたステートメントやパウエル議長の発言を振り返り、FRBの姿勢の変化を読み取ってみたい。「総括すれば、データ重視で会合毎に政策を決める、とこれまでの発言を繰り返したに過ぎない」となるが、一貫して感じることは、パウエル議長は、マーケットが何を望んでいるかを熟知したうえで、実に細やかなメッセージを送ったのではないだろうか。結果として、利下げが思っていた時期より前倒しとなる7月利下げの確率が低下し、9月利下げの可能性が高まってきたと受け取られた。
そこで、シカゴ先物市場で金融政策変更の確率を計算するフェッドウォッチを見ると、今日(7月10日NYタイム3:30)現在、7月の現状維持が1週間の91.7%から95.3%に上昇、一方で9月(18日)は、0.25%の利下げ確率が1週間前の68.4%から70%に上昇していた。大きな違いはないが、市場に見方として9月利下げにシフトしてきたことが分かる。
ところで、パウエル議長の発言に「今後の行動について、いかなるシグナルを送るつもりがない」という言葉があったが、心のうちを読むと「マーケットの皆さん、利下げのタイミングがいつになるか、聞きたいでしょう」。「でも私は言わないよ!」ではないだろうか。そんな決意が聞こえてくるような茶目っ気ぶりも感じた。
また印象的な言葉として、ステートメントにもあるが、避けなければならないこととして「too soon or too much」と「too late or too little」が入る文章/発言があった。これは利下げについて、「拙速でもやりすぎでも」良くないし、「遅くに失することや少なすぎること」もリスクがあるとの説明である。この文脈からは、「利下げは9月から始め、一気にでなく、徐々に(例えば1か月おきに)行っていく」可能性を示唆しているとも読める。全体的には、切れ味鋭く、とはいかないまでも、ひとまず急を要することでなく、データ結果を積み重ねながら、会合毎に決めていく姿勢は維持されていると個人的には結論付けた。
さて、そこで最初のデータが明日11日の消費者物価(CPI)があり、12日には生産者物価(PPI)がある。CPIの市場予想は下記のとおりである(カッコは前月実績)。
予想 (前月)
総合 前月比:+0.1%(±0.0%)
前年比:+3.1%(+3.3%)
コア 前月比:+0.3%(+0.2%)
前年比:+3.4%(+3.4%)
前月比では上昇するが、年率では総合では低下、コアは前月と変わらず、との予想だ。
特に、コアの住宅関連価格の変化が注目される。
さて、今後1週間の相場見通しであるが、ドル円は160円台が定着していくと考え、159.80-162.80円と予想する。またユーロドルは、仏選挙の決選投票を受けて不安定さを嫌う動きもあるが、マクロン大統領がリーダーシップを発揮すると予想し1.0700-1.0950とユーロ高を予想し、対円でも173.50-176.50円と引き続きユーロ高円安と予想する。そして英ポンドドルは首相交代となったが、スターマー新首相の手腕を期待し1.2700-1.2950とポンド高を予想する。
(2024/7/10、 小池正一郎)