過去1週間は嵐の如くに過ぎた。終わってみれば、円安の大波は引き、代わりにそこからドルの波が浮き上がってきた。金融市場は、お金の流れ方の法則に従いダイナミックに変動した。加えて「介入」という人工的な力も加わって、波の高さ(ボラティリティ)は増し、その勢いはインターマーケット全体に拡散していった。クロス円安値更新、株価や金価格の史上高値更新である。
さて、過去1週間のイベントは、パウエルFRB議長の議会証言で幕を開けた。内容は前週のコラムの通りであるが、言葉巧みに「そろそろ利下げを始めるよ」と市場にメッセージを送ったと受け取られて、ドル安の波が表舞台に浮き上がってきた。それまでドル円は、筆者の予想を超える長いエスカレーターに乗って上昇を続けていた。6月3日(安値154.53円)から7月3日(高値161.95円)までほぼ1か月間、ほとんど押し目がないままにドルは上昇(円は下落)を続けた。介入警戒とイベント(パウエル証言/CPI発表)待ちで小緩む場面もあったが、ドル強含み推移でCPIを迎えた。
「驚いた!」発表の瞬間の、米国ライブ解説者の叫びだった。市場予想が、前月比で総合は+0.1%。コアが+0.3%と前月より上昇となっていたところ、実績は総合が△0.1%、コアが+0.1%であったからだ。総合前月比のマイナスは2020年5月以来である。また前年比は、総合が+3.0%(予想+3.1%、前月+3.3%)、コアが+3.3%(予想+3.4%、前月+3.4%)といずれも低下、特に注目されたのが、家賃の低下である。前月比が+0.3%(前月+0.4%)と低下、なんと2021年8月以来の水準と言う。
FRBが待ちに待った変化であり、この点が、物価低下がこれまでと異なる潮流となったと言われるゆえんである。結果として、遅くとも9月の利下げ確率が大きく高まり、金利は低下、ドルは下落した。ドル指数はほぼ1か月で往って来い状態、103.999(6月7日)を底に106.130(6月26日)に天井を付け、その後104.030(7月15日)まで下落、104を割れば、ドル指数の低下に勢いが付くと言う形に見える。この鍵は、欧州通貨動向が握っていると言ってもいいだろう(後述)。
米国株式市場は連日の史上最高値更新、日本もその流れに乗っている。金利低下=株価上昇との関係に沿った展開であり、まさにバンドワゴンの乗れ、と言うことだろう。そしてこの波は金相場にも波及している。5月20日に$2,450.02(スポット)を付けて以来、ドル金利上昇を受けて6月初めには$2,300割れの場面もあった。しかし$2,293.63(6月26日)を底に、今日17日には$2,482.37まで続伸、史上最高値を更新中である。有事の金買いに注目が集まっている。おりしもトランプ前大統領暗殺未遂事件があったばかり、中ソやインドからの金買いの情報も続いている。今年中に$3,000超え(これでも控えめの声あり)の予想も出ている。
ドル安というコインの裏側として金相場動向があるとすれば、もう一つは日本政府のドル売り介入の動向である。その司令塔が「令和のミスター円」との称号を受けた財務省の神田財務官だが、今月末に退任することが決定している。昨日のNHKニュースで神田財務官の、世界を飛び回る粉骨砕身の活躍ぶりや深夜の日米財務省でオンライン会議の様子が放映された。また、財務官へのインタビューもあった。筆者が感じたのは、円の価値弱体化に危機感を持っている姿で、信認の回復には時間がかるが今必要なことは時間に拘わらず躊躇なく実行するという固い姿勢も明らかになった。今日も動いているのだろう。4時過ぎから157円割れとなり、今(6時前)には156円割れも視野に入ってきた。お得意の海外市場での介入の匂いがする。
さて、今後1週間の相場見通しであるが、介入警戒がドル円の上値を重くすると考え、154.00-158.00円の円高を予想する。一方欧州通貨は、英国、欧州(仏)とも選挙が終わったことで、材料出尽くしの通貨買いとなった。ユーロドルは約4か月ぶりのユーロ高の1.0922まで買われ、英ポンドは1.2995まで上昇ほぼ1年ぶりのポンド高となった。明日ECB理事会があり、金融政策が決定されるが、今月は据え置きと予想しユーロドルは1.0800-1.1050とユーロ高を予想する。ただ対円では円高の流れを受けて171.50-174.50円とユーロ安円高と予想する。そして英ポンドドルは1.2850-1.3100と節目の1.30を越えるポンド高を予想する。
(2024/7/17、 小池正一郎)