「時はきた!」それはドル安の号砲に聞こえた。パウエル議長のジャクソンホールの講演をライブで視聴していた。始まってから5分もたたない頃であろうか、一呼吸おいてその言葉が発せられた。“The Time has come for policy to adjust”、調整とは「政策金利引き下げ」だ。
その言葉をきっかけに金融市場はここぞとばかり、債券相場は上昇(金利低下)、ドル急落、株価上昇、金上昇と大きく動いた、23日NY市場が終わってみれば、ドル円は144.04円まで売られ、一日で2円以上も円高となり、ユーロ、ポンドは年初来高値、ドルインデックスは年初来安値と大相場となった。
ユーロは1.1201と昨年7月20日以来1年1か月振りのユーロ高、またポンドは1.3266(8/27)まで買われて、一昨年2022年3月23日以来2年5か月振りの高値となった。そのためドルインデックス(DX)は、100.514まで急落、昨年7月20日以来の安値を付けた。ユーロ、DXは約1年1か月振りの往って来い、おなじ時期(2023/7/24)のドル円は、138円ちょうど近辺、金利差の影響はあろうが、円はまだ割高と言えるかもしれない。
さて、これからのドル円の行方であるが、ひとえに、米国の景気動向、ドルの金利動向にかかっていると言っても過言ではなかろう。パウエル議長は講演の中で、これから入ってくるデータにより最終的に決まる、との表現で利下げは決定したわけではないと含みを持たせているが、個人的には限りなく100%に近く99%利下げは確実と判断している。
そう思うヒントが講演の中に隠されていた。原稿とともに図表が公表されている。要約する(筆者訳)と原稿は4項目に分かれており、序文では、「COVID-19(コロナ)の最悪期は終わり、労働市況は落ち着き、供給制約も正常化した。FRBの二つのマンデート(義務実現)のリスクバランスも変化してきた」とまずは現状評価を示した。
そして第2項目の「短期的政策展望(Near-Term Outlook Policy)」に移った。「インフレは収束し、アップサイドリスクは縮小。一方で失業率が上昇するなど景気のダウンサイドリスクは上昇して来た。FRBは労働市場が冷えることは望まない」と断言。そして、この後に出てきた言葉が、頭書の述べた「時が来た!」であった。
第3項「インフレ動向(The Rise and Fall Inflation)で、前記第2項の背景について図表とともに説明し、最後のまとめ(Conclusion)として、「長期ゴール(物価の安定と雇用の最大化)と金融政策戦略について5年毎に見直し、今年後半から開始する」と決意表明して、講演を終了した。この間わずか15分、質疑応答の時間もなかったが、パウエル議長の意思は十分に述べられていると判断した。
さて、9月のFOMC(9月17-18日)であるが、ポイントは二つ、最初は①利下げ幅、そしてそれを決める②経済指標である。①については現在の見通しは現状維持は100%可能性は無し。可能性が高いのは0.25%の利下げである。フェドウオッチ(CMEによる政策金利見通し確率)の最新データ(NY時間8/28午前4時)によれば、0.25%下げの確率が63.5%、0.50%下げが36.5%となっている。講演直後は0.25%引き下げ確率が76%であったことから考えると0.5%引き下げ派が増加しているが、2023年9月の据え置きから初めての政策変更であり、まずは通常単位である0.25%に落ち着くのではないかと筆者は読んでいる。
但し、②の重要指標で予想とは大きな数字が出れば、一気に0.50%の利下げもあると、今後のデータには注視している。指標として、明日のGDP改定値をはじめ数々あるが、中でも重要な指標は以下の3点―「イ:個人消費支出(PCE)価格指数(8/30)」、「ロ:雇用統計(9/6)」、「ハ:消費者物価指数(9/11)」である。
このうち最初の関門がPCE価格指数であるが、これはパウエル議長の講演にも判断指標として示されている。予想は、総合+2.5%(前月+2.5%) 、コア2.7%(前月2.6%)となっている。 そこで、今後1週間の相場見通しであるが、ドル円は、142.80-145.20円とドル軟調を予想する。一方欧州通貨は、ユーロドルは1.1050-1.1250と更にユーロ高を、また対円では先週と同じ159.50-162.50と予想する。そして英ポンドドルは1.3100-1.3300とポンド高と予想する。
(2024/8/28、 小池正一郎)
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